かって神鋼東京本社で一緒に働いた同期の井上道子さんから「『失権』という本を知ってる? 私たちの知ってる社長の名前がでてくるよ。島田文六って誰?」とメールが来た。(3/25)
島田文六については説明したが、そんな本が出ていることは知らなかった。
早速Amazonに注文して取り寄せた。作家・佐藤優が帯に「感動した」と書いている。
島田文六、元島文社長の回想録だ。
島文、日清、三輪など神鋼協力会社の一つ。
家訓「利他の精神」に基づいて、一生懸命、給料も注ぎ込んで40年間、島田一族と島文と縁の深い神戸製鋼所のパシリ(?)として尽くして来たのに、裏切られて島文社長を馘になったという恨み節だ。それも息子との意見対立、娘婿による追放などという悲劇調。
絶好調から奈落へみたいな波乱万丈の人生ストーリーに違いないが、アップル社のスティーブ・ジョブス(2011.5死去)を思い出して感動したことが蘇ってきた。しかし、この『失権』を読んで、そんな気持ちは全く沸かなかった。気が重たくなった。
神戸製鋼のお家騒動や黒い交際のこと、夜の秘書課長、博章機関などなど怪しげな言葉が舞い、B勘などという裏金工作にまで触れ、長く諜報活動に携わった様子が得々と綴られている。島田一族、神戸のまち、神戸製鋼が好きなら、こんな回想録を遺すべきではない。黙って墓場まで持っていくべきだ。まるで「乗っ取られた島文など潰れてしまえ」というようなやけくその感じだ。「わしは間違っていない」と世間に訴えているよう。「相原憎し」は過剰だ。何処の会社でも(総会屋対策など)負の活動に関するメモは「書かせない、残さない」の厳しいルールがあるぞ。当然のことだ。
同族会社は同族会社らしく運営するのが良かろう。一族の生活を本家が扶けるという思想も使い分けが必要だろう。(アラビアの諸国の王様はクーデターが起きないよう血族を経済的に同等同格に支えるのがルールだが、それと同じようだ。)それよりも何よりも一人で40年間も続けて諜報活動、ロビイスト活動に携わったのが大間違い。天職と思いこんだのが間違いの基。周りの関係者は代変わりして行くのに一人で40年間も携わっていたら、自分はどう思われているか気が付く筈だ。最初は重宝がられても30年も過ぎれば古くなり不要になる。周囲は「いい加減退いてくれ」と思い始める。自ら退かないから引きづり降ろされる。裏切られたと思うのは好都合だろうが、天がそうしたのだと思うのがよい。「華麗なる一族」という言葉も出てくるが、そんなことを夢見ていたのだろうか。それはこれからではないかな。希望→絶望→希望。華麗なる余生を一族と共にお過ごしされんことを。
「失権」は昨年12月に幻冬舎から出版され、先2月には第3刷が発行された。品質管理問題で大激震中の神鋼、こんな厳しい状況の真っ最中に神鋼の恥部を晒け出すような記述は実に「恩知らず」。
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